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小劇場:番外編・5-2 君となら

長らくお待たせいたしました; 5の後編になります。山場ですね(自分で言うな)。
長くなったのでこれもいったん切ろうかと思いましたが、一気に載せちゃうことにしました。

前回はコチラ

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 「え、あ、えっと。ギリジンさん?! ご、ごめんなさい。こ、こんな格好で……えっと、情けない格好ですみません本当に!!」
 掃除に精を出していたのだろう。ところどころ汚れのついた顔と服で、わたわたと謝罪をしている。心なしか赤面しているようにも見える。あまりの必死さにわずかな間だがぽかんとしてしまった。
 「え、い、いやいや! 疲れてるのにごめんね?!」
 僕はよかったのに慎さんが…なんて口が裂けても言えない。
 「気にしないでいいから…! …iceさんは今、時間大丈夫なの?」
 なんなら後でも…などと迂闊なことも言えない。『お兄さん』がどこで見張っているか分からないからだ。
 どうしよう。本当にどうしよう。
 「え、いや大丈夫ですよ? 私全然疲れてませんし。掃除もあとは慎に任せた方がいいとか言ってたんで、もう、今日はほとんど……」
 「そうなんだ……それならよかった。」
 大丈夫ですよ、こちらこそこんな姿で…と首を横に振った彼女。期待した自分が愚かだったか…しかし、彼女には申し訳ないと思いつつ、少し嬉しい自分もいる。
 とはいえ、切り出す糸口がつかめない。もうここはすぱっと告白してしまったほうがいいのだろうか?
 いや、ほんと急に来ちゃってごめん。と前置きしてから…さらにそこで一呼吸置く。最近ではこんな大胆なアプローチが求められる仕事も無いぞ。
 「実は今日…」
 「……今日? 今日がどうか……しましたか?」
 う。もうどうにでもなれ。
 「…今日、は、帰り際にお手洗いを貸してもらおうと思ったんだけど、場所が分からなくて間違えてここに来ちゃって…慎さんに教えてもらおうと思ったんだけど聞きそびれちゃったんだ。悪いんだけど、ちょっと案内してもらえないかな?」
 最悪だ。なんだこれ。どう考えても不自然だ。顔の汚れを気にしてたみたいだったから、なんとか彼女にも時間をあげるきっかけも作りたかったのだが…変に思われては元も子もないじゃないか。
 「――それから、折角だからちょっと話したいこともあって、ね。」
 自分に釘を刺すことも忘れない。
 「お手洗い、ですか? あ、はい。分かりました。案内しますね?」
 いつもの笑顔を見せた彼女。何も突っ込まれなかったことにほっとしつつ、その笑顔に一瞬みとれた。
 こちらです。と扉を開ける彼女にありがとう。と礼を言いつつ案内されるがままついていく。頭では別のことをフル稼動で考える。
 どうやって告白すべきか。どこに行けばいいか。……しかし、考えれば考えるほど成り行きにまかせるしか無い気がしてきた。
 「さっきもちょっと言ったんだけど…伝えたいことがあるんだ。」
 できれば、2人きりになれる場所で。少し声量は落ちたかも知れないが、伝えられたはずだ。
 だからまた案内してもらうことになる。いい逃げっぽくなってしまったかも知れないが、そんな旨のことを残して、お手洗いへと早足で入った。

 洗面所に両手をつき、はぁー、と深いため息をついた。顔を上げる。鏡に映る自身の顔が、いつも以上に情け無い。
 オーナーは「お前の顔は国宝級なんだぜ!」なんて冗談を言っていたが、流石にこのへタレ顔を見たらそんなことも言えなくなるんじゃないのか。
 仕事のときにしばしば使う、引き締まった表情を作ってみる。それなりに長い経験上このくらいはできる。
 でもこれは全てが外的要因で構成された「仕事」じゃない。自分自身の心に従い行動することが求められる。
 「僕」でいなければならない。「僕」でいるしかない。…作り物めいた顔が消える。
 そういえばそんな独特の責任感と、それによる気持ちの高まりも久しぶりかもしれない。

 俺は、お前には幸せになってもらいたい。

 オーナーが言っていたのは、ひょっとしてこういうことだったのだろうか――
 そこでふと気付いて腕時計を確認する。いけない、思ったより時間が過ぎてる。3分以内で出ようと思ってたのに。
 ぱし、と両手で自分の頬を叩いて気合を入れると、その場を後にした。


 「……えっと、ここなら滅多に使わないし皆掃除してるから……暫く、誰もこないと思います。」
 言い訳のためのお手洗いから抜け出し、案内されたのは仮眠室だった。簡易ベッド2つに机が1つ。
 この店の勤務形態がどうなっているのかはよく知らなかったが、彼女が言うのなら間違いないだろう。
 ここでいいですか? と尋ねる彼女に、ありがとう。ごめんね、変なお願い聞いてもらっちゃって…と返した。
 「……あのっ、私に伝えたいって事……何なんですか。」
 彼女からの当然の質問を、緊張で裂けそうな胸を理性の手で必死におさえながら受け止める。そりゃあ訊かれて当然だ。
 「うん……。」
 改めて、姿勢を正して相手のほうに向き直る。相手の目を見つめる。
 こんな僕でも気に入ってくれたのならば、僕は彼女に応える義務があるのだ――。

 「――あの日、全国対戦で会った日から……ずっと、好きでした。
 (カッコ良い、気の利いたことなんていえないけれど)
  こんな僕でよければ、付き合って下さい。
 (貴女の幸せを願う、いや、誓う人でありたい。)
  ……お願いします。」

 最後に、深々と頭を下げた。
 しばしの静寂…それでも僕には永遠に近く感じられた…の後だった。

 「……私も、貴方が……好き、でした……。
  宜しく、お願いします……。」

 頭上から降ってくるその声が、言葉が、自分の中に降りてくるまでに時間を要した。
 目を見開いているのが自分で感じられる。あまりの嬉しさに鳥肌が立つのが分かる。
 瞳を閉じて顔を上げる。そっと目を開けると、涙交じりの声と完全にリンクする一筋が頬に光っているのが見てとれた。
 少し迷ったが、それを拭うべくそっと指先で触れる。きっと「僕」は情け無い笑みを浮かべていることだろう。
 「ご、めんなさい。変な所見せちゃって。可笑しいな……嬉しいのに、涙止まらないんです。嬉しいから……止まらないんでしょうか。」
 彼女の『兄』から聞かされていても、本人を目の前にして、本人の口から聞くのとでは絶対的な差がある。
 彼女を幸せにするはずが、逆に僕が幸せになっているとしか思えないほどに胸いっぱいに満たされている。
 「ううん、変なんかじゃないさ。謝る必要なんてどこにもないよ。…僕も、嬉しくて仕方が無い。」
 僕が触れることを許してくれたことに感謝した。実は彼女に触れるのはこれが初めてだ。
 拭っても拭っても、彼女は涙を流した。
 「変じゃない、ですか? ……よかった。」
 柔らかな彼女の微笑みにくらりとしつつ、なんとか焦点を保ちながら指の平で雫をひろっていたが、心の中の合図をともにそれも止める。
 今度こそ、拒否されてもかまわないと思った。両肩に手を置いた時点で、何か少しでも彼女が訝しげな素振りを見せたら即座にその手を離し、顔は1ミリも近づけまいと。
 
 祈りにも似た彼女の姿。上気した頬も愛らしい。――潤んだ瞳が閉じられ、そのときは来る。
 そっと、自らの唇を彼女のそれに重ね合わせた。

 このまま時が止まればいいのに、とさえ思った。
 しかし、幸せな時間はあっという間に過ぎて行くもので。
 どれほどキスをしていたのか実際には分からなかったが、自分には短く感じられた。
 感謝とか、愛情とか、とても表現しきれない気持ちでこの心が満たされるには充分すぎるほどの時間はあったわけだが。 


 相手から顔を離し、肩から手を下ろしているときだった。
 「(……惜しいなぁ。うーん、このままいっちゃえばいいのに……。)」
 酔いが醒めるとは、このような状況を云うのだろうか。やっと聞こえる程度の小声だったし最初は幻聴かと思った。
 「(……気持ちは分かるけど、彼にはまだ無理ね。これでも頑張ったほうじゃないかしら……)」
 馴染みのある声まで聞こえてきたもんだから思わず固まった。
 「(うーん、これからもちょっとずつ押していった方がいいのかなぁ。いや、でも彼らのために自然と……)」
 iceさんが声がする方を見た。そして固まっている僕から離れ、思ったより勢い良く扉を開けた。
 「……何、してるんですか?」
 聞こえた声を裏切らず、僕に嵐と幸せを呼んだiceさんの『兄』こと慎さんと
 「楓さん……こんなところで何してるんですか……?」
 なぜか僕の友人である仲野楓さんがそこにはいた。
 自分も人のことは言えない立場だが、とりあえず今は棚に上げるべきだと思った。 …おぉ、iceさんが怒っている?
 「いやぁ、兄的存在と言うもの。やっぱり妹のことが心配になっちゃってさ……別に、悪気とかはな」
 い。と続くはずだったのだろう。どこからかモップが現れて、慎さんすれすれに壁に突き立てられゴッ!!と音を立てた。
 「……ひ、との恋愛を覗き見なんて……ふでぇやろうですぅぅぅぅ!!!! 楓さんまで巻き込んじゃって……あれだけ駄目だっていったのに!! 慎さんの馬鹿ぁぁっ!!」
 ひゅんとモップがうなったかと思うと、次の瞬間彼の額に命中した。
 「……じょ、冗談なのに……」
 そのまま彼は気絶してしまった。


 …………ひ………… ひ い い い い い い い い い っ ?!!!
 あまりにもあっという間の出来事だったため、慎さんが倒れるまでただ突っ立っていることしか出来なかった。
 ふと気が付くと、そこには ノビた慎さん・それを見つめる(というか観察している)神妙な面持ちの楓さん・モップの柄を掴んだまま肩で息をしているiceさん という何も知らない人から見れば一風変わった殺人現場のような状況がそこには広がっていた。
 あれ? いつの間にサスペンスになったんだ? ってそうじゃなくて。
 iceさんの機嫌を伺いつつ、まずはガイシャ(だから違うってば)の容体を調べることにした。
 「命に別状はないわよ。」
 と楓さんは言っているし、それはよかったんだけど……
 「えぇと…ice、さん……?」
 スイカを素手で割りたい、と語ったいう『兄』の言葉を不意に思い出した。…なんでこのタイミングで思い出すんだ、僕よ。
 「え、えっと……ごめんなさい。思わず我忘れちゃって……わ、私……本当にごめんなさいぃっ!!」
 頭を何度も下げて「僕に」謝る彼女。
 「いや、いやいやいや別に僕は構わないんだけどさ。その言葉は…慎さん…に、言ってあげたほうがいいんじゃないか、な;」
 ひょっとしてこのお店の人は皆「強い」人ばかりなのだろうか。そんなことを思いつつ、僕の知る姿に戻った彼女を見る。
 そうこうしているうちに、楓さんの助けも借りずに慎さんが起き上がった。
 「……えっと。だから言ったんだよ。それでも好きかって。……ま、西瓜を素手で割る腕力とかはないけどね。だって僕たいした事ないし。」
 種明かしを聞き、なるほど彼らしいと思った。どこまでもよくできた人だ。
 「元気なiceさんも、素敵じゃないですか。」
 でもね、あいにく、その程度で揺らぐものではないんですよ。
 そう主張するように、にこ、と笑って応える。びっくりしなかったといえば嘘になるけど。
 「……言わなくていいんですっ、いつもあんな人なんですから。」
 少しむくれたように顔を慎さんからそむけ、後ろに回って背中に顔をうずめるiceさん。
 「今のは忘れてくださいね」という声がか細く聞こえてくる。
 なんだかんだいっても、iceさんはひとりの女の子だ。恥らっている(と思われる)今の仕草なんて、思わず顔が緩んでしまいそうになるほど可愛い。
 「……元気で済ませられるのが凄いというか。 ……ま、これからも宜しくね。『妹』を。」
 彼は少しだけ虚を衝かれた表情をみせたが、やがて目を細めてにやり。と笑った。
 iceさんには大丈夫だよ、と声をかけて、不敵な笑みを浮かべる彼に向き直る。
 負けないくらい挑戦的な笑顔を作って宣言する。
 「……こちらこそよろしくお願いします、『お兄さん』。」

 ――iceさんと恋仲になれただけでなく、新しい面を色々と見ることができた。慎さんにも感謝しなければならない。
 そして、手ごわい人物は実は初めてじゃないんだよね、と心のうちで思う。
 なぜなら……後でどんなに問い詰め調べても、あの場にいた理由を絶対に明かしそうに無い楓さんこそ、目立たぬ一番の驚異だからだ。
 なんという精鋭。色んな意味で環境に恵まれてるな、と探偵としても思うのであった。


【つづく】


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…えぇと、はい! そういうことで!!
随分と大きな展開でしたね!!!
お付き合いいただいたmyuuさんはもちろん、読んで下さった皆様に感謝ッ! 私もギリジンも幸せ者ですー!

ギリジンが慎さん本人に向かって口に出して『お兄さん』と呼ぶのは、何気に今回(の終盤/つまり告白の後)が初めてのはずです。もし呼んでたら直さなきゃ…。

最後【つづく】になってますねぇ……ま、それはまたいずれ(ぇ)。一応これで話としては一区切りではありますが。ちょっと書きたいものが出来てしまったので(オイ)。


何はともあれ、本当にありがとうございましたー!!!

| Answer×Answer | 13:28 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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